何かが頭を触る感触で目を覚ますと、目の前で己の頭を撫でている天然パーマがいた。なんでこいつが、こんな近くに。驚愕に目を見張り、普段であれば決して許さない至近距離に自ずと四肢が強張るも、そういや昨夜は飲みすぎてそうかそういえばと現状を理解するのに時間はかからなかった。そして襲い掛かってくる後悔の嵐。あぁちくしょうが!よりにもよって、こいつと!! 目の前の男を殴って投げ飛ばして更に斬りかかりたい衝動に駆られたが、眼を瞑り手の平を握りこんでやり過ごした。今ここで暴れだすのは相手にとって理不尽であることが分かっていたし、自分としても、それではまるで犯した失敗をおかしなテンションでもって隠し通そうとする可哀想な子どものようだと思ったからだ。
土方が目を覚ましたことに気付いているはずの銀時は土方の髪を指に絡めたり撫でたりと、好き勝手遊んでいる。いつもへらへらしている唇が今はきゅっと一文字に結ばれていて、このときだけは別人に見えた。こんな顔もできるんじゃねえか。何も彼がいつも締まりのない顔をしているわけではないことを土方は知っていたが、こんなときにこんな表情を見せられるのは意表を衝かれたようで些か不愉快だった。

「ねえ、まだ起きるつもりないわけ?」

視線の先は絡めた髪だったのが土方の眼へゆっくりと移り、指の動きが止まった。微笑むように眼を細めて土方を見る銀時は、意識を飛ばす前のあの態度など無かったかと思わせるような表情だった。

「やっぱ、キツかった? 意識飛ばしたし」
「…分かってんなら聞くんじゃねえよ」

ニヤリと口元を歪ませて、ケラケラと笑いながら「ごめんごめん」と言い、そして銀時は身体ごと少し土方の方へ近づいてきた。ベッドの軋む音が響く。
ゆっくりと土方の耳に手を伸ばし、サイドにある髪を耳にかけてくる。その手つきに己の心臓は黙っているわけがなく、ドクドクと一気に全身の血が心臓へ流れるような感覚が襲い、気づけば手には汗が溜まっていた。

「てめぇがまだ枯れたジジイじゃねえって分かって安心したよ」

揶揄して鼻で笑う。しかし、常ならムキになって言い返してきそうなところ、そうだねぇと銀時はやわく笑うだけだった。――なんか、違う。抱く違和感に土方は眉根を寄せる。

やんわりと土方の手を銀時の手が握ってきて、でもその力はあまりにも弱弱しかった。胸が苦しくて仕方ない。目が合うとまた微笑む銀時は、泣きたくなるくらい優しい顔で、だから土方は情けない顔で彼を見てしまった。