生きているからには理由があるはずだろう。だって俺はここで生きているんだから。釈然としない気持ちをぶら下げて歩いていたら辰馬にぶつかった。どうした銀時?具合でも悪いんか?ただぶつかっただけなのに心配してくる彼におまえ心配性すぎだよと苦笑して、銀時は辰馬にもさっきと同じ質問をしてみた。俺の生きてる理由って何。そしたら辰馬は目をぱちくりと瞬いてますます心配そうにこちらを見つめて、誰かになんか言われたのかと聞いてきた。
なんでそんな話になるんだよ。呆れて見上げると、辰馬はちょっと考えるように宙に視線を流し、それからいつもの笑顔に戻って、なんも無いならいいんじゃ、と銀時の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。そのまま通り過ぎようとする彼の裾をひっ捕まえる。まだ質問の答えをもらってねーよ。おおそうじゃったすまんの〜アッハッハ!いつもの笑みであるはずなのに何かが違う気がして、なんかあったのはおめーの方じゃねえかと聞いたら辰馬は本当にびっくりしたように銀時を見返し、表情をくしゃりと歪めて、ちょっと哀しいことがあったからのう、と呟いた。だけどおぬしが心配するようなことじゃないと言われてはどうしようもなくて、銀時は少し躊躇ったあともう一度辰馬に問う。俺が生きる理由ってなに?
銀時の気のせいでんければ、辰馬はまたついさっき見せた「ちょっと哀しいことがあった」顔になったのだが、原因が何かは知らないので辰馬に声をかけることもできず、理由はなんじゃろなぁと腕組みして考える彼をただ黙って見上げる。
少しして辰馬は腕組みを解き、それはどうしても今言わなきゃいかんのか、と問い返して来た。別にそういうわけじゃないけどと銀時は答えに詰まる。知りたいから聞いたのだけれど、辰馬が言いたくないのなら無理に言わせるのも気が引けて、じゃあいいよ引き止めてゴメンなと銀時はその場から立ち去った。
おまえ、馬鹿じゃねーの。そう言って銀時の背に圧し掛かってきたのは高杉だった。おまえ俺より小さいくせに重いのはなんでだよ。高杉はなんだと俺が重いだとと耳元で怒り出すが、ふと彼から漂った香りに銀時はその理由を知る。高杉、おまえ血生臭すぎ。血を被るのはやめろっていつも言ってるじゃねーか。高杉がにんまり笑う気配が首筋でした。被っちまうもんはしょーがねえだろ。それと悪ぃ、おめーの後ろもびちゃびちゃになっちまった。…ふざけんな。
背中に圧し掛かられたままでは動けないので、首にがっちりしがみついた腕を引き剥がして向き直る。少しだけ低い位置にある隻眼が愉快そうに細まっている。銀時ぃ、おまえ、なんで理由なんか欲しがる。いやーな予感。
別に、理由なんかねーよ。彼と関わったあとは大抵面白くない気分にさせられるから、銀時はどうでもいい振りをして踵を返す。
その背中に高杉の声が届いた。
「生きる意味ってのは、死のうとしてる人間が探すもんだぜ」