ちょうど自分の前の席に座りパフェを頬張る男を見ながら、土方はふと疑問を抱いた。
江戸は広く人口密度は高いのに何故かこの男と遭遇する割合は恐ろしく高く、出会えば口論して、相手ののらりくらりとした態度にイラついて殺してやりてえとか思って。
だけど最近では刀を抜きあうほどの喧嘩も少なくなり。時には銀時の方から土方のオフの日を尋ねてくることも増えて、会う約束を無理やりされたりして。
男二人、こうして何処かの店に入って銀時が甘味を注文して土方はコーヒーを頼んで。そして無一文でやってくる銀時の分まで土方が奢るのだ。
一方的にたかられているのに、別に彼と会うことをそれほど嫌っていないらしく。以前ではありえなかったこの距離を土方は不思議に感じ。そして考える。
「なあ」
「んあ?」
土方の呼びかけに唇の端にチョコがついたまま顔を上げる。年相応に気をつけやがれと最初の頃こそいちいち注意していたが、今では別段気にすることもなく慣れてしまい。それもまた土方にとっては納得できない心境の変化で。
白銀をした不思議な瞳を見返しながら、土方は聞いてみた。
「俺たちの関係って、なんだ?」
いきなりで今更な発言に、銀時はぽかんと口をあけ、まじまじと真向かいにある顔を凝視した。その視線に自分の言ったことが我ながらおかしなことを聞いたような気になってしまい、居心地の悪さに土方はふいと目線をずらす。
しかし銀時の方もその質問には素直に疑問を抱いたらしく、スプーンを咥えてうーんと腕組みした。
「………関係、ねえ?」
ライバルというには少し緊張感が足りないような気がするし、かといって友達だと言えるほど仲がいいというわけでもない。嫌いではないけど好きでもないし、苦手ではあっても一緒にいることが苦ではなくなった。
「……俺たちはこういう関係ですって、決めなきゃ駄目なわけ?」
「別にそういうわけでもないが、なんか違和感があるんだよ。てめーと一緒にいることに」
「多串クン、人嫌いだもんねー」
「別に。めんどくせーだけだ」
「へえ?」
銀時は驚いたように眼を見開き、「ふうん、そうなんだあ」面白そうに笑った。
新しい煙草を取り出そうとして、土方にとってあまり宜しくなさそうなことを思いついたっぽいその笑みにぴくりと土方の手が止まる。
「なんだよ」
「べっつにー」
銀時は勝手に満足したのか、溶けたアイスを食べる作業に再び戻った。
「なんだってんだよ」
「多串君は人と関わるのが面倒なんでしょ?」
「そうだな」
「ならどうして、俺と会うことは面倒だって思わないわけ?」
今まで「嫌だ」と言ったことはあっても「めんどくさい」と言ったことはないよね?と、銀時はにやにやと笑い。
そういやそうだ。どうして俺こいつと会うことが面倒くさいと思わないんだ?とますます不思議になった最近の自分に土方が呆然としている間に、銀時はパフェを食べ終わって「ごっそーさん」と立ち上がり、また呆けたままの土方の顔を上から覗き込んだ。
「俺との関係が不思議?」
「関係っつうか……なんで面倒じゃねえんだ、俺………」
「ライバルなら面倒どころか、奢ってもくれねえはずだしなあ」
「友達でもねえ絶対それはねえ。てめぇみたいなのを友人にするほど俺は目は悪くねえ」
本気で分からないと悩む土方に、銀時はちらりと笑い。
「悩み多き副長さんの為に、ここは無理やりにでも問題を解決させておきますかね」

 なんだそれは、と土方は顔を上げて、

「………………っ?!」



 キス、された。
 








「恋人関係ってことで、よろしくありませんこと?」

 口元を押さえ、驚愕に固まる土方の顔のすぐ目の前で、紅玉の瞳が愉快そうに笑った。