「…………我々にもっと力があれば」
ヅラの呟きに、そうだな、と頷いておく。だけど心の中では、どうして、何のために、と俺はヅラを否定していた。
力は何にもならないのだ。もう自分たちは幕府に人に世界に捨てられてしまった。世の中には流れがある。それに乗ることができて初めて人が持つ力は大衆に向けることができるのだ。今この時勢では、俺たちが力を持ったところでそれはただの人殺しの道具にしかならない。
ああ本当に。強さってなんだろう。強いってどういうこと。力が強さではないのなら、なにを強さと言えばいい。どうすれば強いものになれるのか。
「強くなるには、どうすればいい」
少しだけ戸惑ったように眉間の皺を一本増やし、分からない。とヅラはそっと呟いた。
力があることと、強いってことは、似ているようで違う気がする。
力があれば仲間を救えたのか。そんなわけがない。仲間を殺したのは力ではなくて、世の中の流れと仲間であった自分たちだ。
では、強さがあれば仲間を殺さずにすんだのか。それこそ有りえないのではないだろうか。もし本当の強さを持った強い人間がいたら、そんなヤツはとうの昔に死んでいると思うのだ。
なぜ?
「皆のところへ戻ろう、銀時」
ヅラが墓から離れていく。長く伸ばされた髪がきれいに翻ってつい視線で追う。そうしてからその後ろに俺も付いていった。さくさくさくさく。足を進めるたびに伸びた雑草が踏み潰される。尖った先が甲に当たってむず痒い。
「なあ桂」
「強くなる方法など、俺にも分からんよ」
「強い人間は、早く死んでしまうような気がする」
ヅラの足が止まる。今度は俺を振り返らないで、なぜ、とただ一言問うた。
正直、よくわからないけれど。
「俺たちが戦うのは、俺たちが弱いからだろう?本当に強いやつなんか此処にはいない。だけど、強いやつがどこかにいないと弱い俺たちは戦おうとしなかった。だから本当に強いやつらは死んでしまって、力のあるものに対して弱い俺たちは莫迦みたいに刀を振り回してるだけなんだ」
莫迦みたいに、を強調すると桂が怒ったように振り返った。
「違うだろうか」
「……戯けたことを」
「そうか。違うか」
少しは答えに近づいた気がしたのだが。だけど桂のそんな表情を見ると、そんなものが答えであってほしくない気がしてしまった。
「なあ桂。俺は、お前から見た俺は、強いか」
なにを莫迦なことを。重い溜息と共に投げやりに吐き出し、何処か苦々しそうに浮かべた表情のまま、
「 ここに居る誰よりも、強いものだと思っている」
では、俺は強くなるしかないのか。
仲間のところへ戻る桂の後姿を見送りながら、もう一度、答えにたどり着きそうに無い疑問を繰り返した。