「世界はまっこと不思議なことばかりじゃ」
男の言うことはいつだって突然で突拍子の無いことばかりだった。だから今更、彼が何を言おうと銀時は「お前どうかしたの?」なんて、逐一気にしたりはしない。
だけど男の言葉には必ず彼なりに思うことがあってのコトバだと知っていたから、銀時は心持ち顎を持ち上げて、先ほどからずっと自分の頭を撫でている男を見上げた。
「なんで?」
「わしゃおんしのこと、あまり気にいっとらんかった」
にこにこと笑いながら、坂本は言う。
坂本が色んな意味で突然な男であることは承知していた。承知していたが、その内容はいちいち銀時の癪に障るようなものであることが多く、今回も銀時はちょっとだけ、むっとした。
ただし今回のそれは、坂本の台詞のむかついた、というより、ちょっとだけ坂本の言葉が衝撃的だったからこその苛立ちなのだけれど。
「その理由を50字以内で説明せよ」
「白くて暗くてやたらめったら強いくせに詐欺じゃねえかと泣きたくなるくらい馬鹿だったからです。」
「きっかり答えてくれてありがとう。ね、殴っていい?」
「この体勢のままで殴れるなら構わんぜよ」
いつもなら「キャーごめんぜよー」とでも言って謝る坂本にしては余裕な台詞。
坂本の膝を枕に寝そべっている銀時は、確かに、腕を精一杯伸ばしたとしても、坂本の頭を殴るのは難しいだろう。
試しにぐっと腕を伸ばしてみるが、殴ろうにも力が入らない。してやったりな笑みを浮かべた坂本にむかついて、銀時は諦めずに坂本にボディブローをくらわせておいた。本当は頭を殴り飛ばしてやりたいのに。
「で、世界が不思議だって?」
「そうじゃそうじゃ。世界は不思議じゃ」
銀時の拳がうまいこと鳩尾あたりにヒットしたのか、坂本は少し苦しそうに顔を歪めて、けほっと堰をした。ざまーみろ、と銀時は子供のような顔をしてそれを笑い、けれど坂本の話を聞こうとする瞳は真っ直ぐこちらを向いている。
坂本は銀時の顔に自分の顔を近づけた。まるで接吻でもしそうなくらに近い距離。
それでも坂本を真っ直ぐ見上げてくる銀時の瞳に己を映して、坂本は満足そうに笑う。
「あんなに気に入らんかった銀時のことが、今じゃこんなにも大切に想える」
人ってのはどう変わるかわからんのう。世界というのは不思議なもんじゃ。
みるみる顔を赤くしていく銀時の顔を覗き込んで、坂本は嬉しそうに微笑った。