「銀時」
名前を呼ばれるのが好きだと気づいたのは結構最初のときだった。彼が「万事屋」でもなく「白髪」でもなく、ごく自然に「銀時、」と呼んだとき、心の中ではもう洪水やら嵐やらが大暴れで大絶叫。よく平静を装えたものだと思う。もしかしたら手の先の指くらいは震えていたかもしれないけど。
何かがいつもと違うと違和感を抱いたのは瞬きをする程の一瞬のことで、彼が自分の名前を呼んだことに気づいたとき自分の心臓は大きく高鳴った。どくんと。
彼をこんなにも好きになってしまったと気づいたのはそのときだった。
「……手、貸して」
「なんで」
「いいから」
銀時の手に土方の手の平が重なる。銀時はそれをぎゅっと握り締めた。彼はちょっと驚いたようにその手を見つめたが、銀時がねだるようにもう片方の手を背中にまわすと握り締められた手の熱さについては何も言わずにその先を続けた。
「おまえって、ときどきすっげー甘えたがりになるよな」
「そうなの?」
「自覚なしだから余計タチ悪ぃ」
「甘やかさなきゃいいのに」
できるわけねえだろ。土方は笑った。包んでいた手とは別の手が銀時の頬に触れる。甘い重圧が左右交互に感じ、最後に唇に触れる。
「………そういうおまえは、いつも優しすぎる」
どうしてくれるんだ、と零れたのは溜息に紛れて。今度はぎゅっと銀時が土方の胸元に顔を埋める。
小さなこどもを宥めるように大きな掌が銀時の髪を梳いて、それから穏やかな体温がそっと視界を覆った。