土方は確かにその男を嫌っていた。あの飄々とした態度ややる気の無さそうな気だるげな表情と死んだ目はまさに土方の嫌いなタイプの人間のするものだったし、普段へらへらしているくせに剣の腕は自分よりいいなんてふざけた野郎だと考えただけで青筋がたつ。何より自分と考え方が似通っているらしいことも承知していて、それが更に土方の彼に対する嫌悪感を煽っていた。
そしてそれは相手にとってもそうであるに違いない。ああいうタイプの人間はこういうタイプの人間が嫌はなず……今までの人生経験を踏まえたうえでの結論。それはあながち間違いではないはず。
なのに。
どうしてこいつは俺の目の前でパフェなんか食ってやがるんだ。


「あ、お姉さんチョコレートパフェをもう一つ追加ー」
「おい」
「特盛ってないの?ない?嘘言うんじゃないよ作ればあるでしょうが。隠さないで持ってきなさい。そんなことでこの銀さんは怒ったりしないから」
「おい」
「しょうがねえなあ。じゃあ二つ追加していい?」
「……てめえ、」
「はいはいはいはい、何の用なの多串君。俺は今忙しいんだから後にしてちょーだい」
無視すんのも大概にしやがれと土方が怒鳴りそうになったところで、銀時はウエイトレスから顔を土方の方へ向けた。後にしろ、と犬を追い払うように手をしっしっと振られ、土方の米神に青筋が立つ。けれどここで取り乱しては大人気ないと、落ち着け落ち着けと己に言い聞かせる。
「てめえがなんでこんな所にいやがる」
「見てわかんない?パフェ食べてんでしょうが」
そう言って銀時が示したテーブルの上には確かに銀時が注文したパフェが食べかけの状態で置いてある。けれどそんなことは土方だって百も承知だ。ふざけるなと啖呵切りそうなのをここでは人目が多すぎると理性を総動員して塞き止める。米神がぴくぴくと痙攣した。
「どうして、てめえが俺の前で、んなもんを食ってんのかを、俺は聞いてんだ」
落ち着かせるためにもわざとゆっくり言葉を吐く。けれど指先が震えてしまい、持っていた煙草から灰がぽろりと落ちた。
土方の内心を知ってのことか、銀はにんまりと笑う。
「仕事を探してぷらぷらと歩いていたら偶然この店に入っていく多串君を見かけてですね」
「土方だっつってんだろ」
「で、どうせだし、偶然を装って相席にさせてもらって」
「暴露してる時点で装ってねえよな既に」
「あわよくばパフェを奢って貰おうと思ってだな」
「斬るぞてめえ」
腰の刀に手をやる。しかしその程度ではこの万屋が怖気づくことなんかありえない。彼は一度、真剣勝負で土方に勝っているし、「斬る」と物騒なことを言うわりには土方がまだ本気でないことを分かっているからだ。むしろこちらの態度を面白がって見ている様子さえ伺えて、嫌なやつだと、土方は苛立ちを紛らわせようと煙草の煙を思い切り深く吸い込む。
「てめえ、何でいちいち俺に突っかかるんだ」
「ああん?そりゃあんただろ。こちとら善良な一般市民だってのに、やたらとガン飛ばしやがって、いい迷惑だっての」
「木刀振り回して万屋なんて仕事してるやつのどこが善良な一般市民なんだ」
「瞳孔開いて一般市民に斬りかかってくる奴に言われたくねえなあ」
「……奢ってやんねえぞ」
「あれ、奢ってくれるんだ?」
やられた、と思った。にやにやと笑うその顔に濡れ布巾を投げ飛ばしてやる。それをひょいと軽くよけて、銀時は満足げな顔で口にスプーンを運ぶ。
銀時の思ったとおりに事が運んでしまったのは癪に障る。が、目の前でこうも嬉しそうにされれば、そう悪い気もしなかった。甘いものが苦手な土方にすればなんでそんな美味そうに食えるのかまったくもって不思議だが、ここまで初々しげにされると、かえって気持ちのいいものがある。
土方は銀時のことが嫌いだ。それは「知り合いにはなりたくないが赤の他人でもない」微妙な関係が災いしてのことなのだが。
――だけど、たまにはこういうのもそんなに悪くないなと、土方は新しい煙草に火を点けた。