さんさんと降り注ぐ日光とゆるやかに流れる風が心地よい昼下がり。縁側でぼんやり横たわってうとうとと舟を漕いでいると、いきなり体の下に腕が入れられてひょいっと持ち上げられてしまった。ほんの一瞬の浮遊感にぱりくりと瞬いた銀時をよっこいしょと膝の上に乗せて、坂本は「あ〜落ち着く」と少女を抱きしめる。
坂本と銀時とでは身長差が頭ひとつ分ほどある。その差は坂本にとってちょうど程よいらしく、彼は頻繁に銀時の頭に顎を乗せる。今日もまた銀時を抱き込むようにして、ついでに銀時の手に自分の手を重ねて膝の上で指を曲げたり握ったりして玩び出した。傍から見れば仲の良い親子が和んでいるような絵に仕上がっている。

「……なんか、ムカつく」
「なんでじゃ」
「………おまえ、でかすぎるんだよ」

見下されているわけではないから、とりわけ不愉快であるということでもないのだけれど、なんとなく拗ねてしまいたくなる心境に陥った。坂本に子ども扱いされることも抱き上げられるのも慣れているのに、先程の「ひょいっ」が面白くない。
この馬鹿力め。握られていた手を外させて、坂本の太い腕をぎゅっと握る。銀時の片手ではとても回りきらず両手を使えば指先を掴める。二の腕に至っては指先が少し触れるだけで、しっかりと鍛え抜かれた筋肉の弾力に押し返されそうな感じだ。

「いーなー筋肉。俺もこんぐらい欲しい」
「それだけはいかんぜよ。おんしがワシみたいなムキムキマンになったら同志はみんな悶え死きしまう」

坂本が喋るたびに動く顎のおかげで頭がガクガクと揺れる。視界がブレて軽く酔いそうだと、首をカクリと曲げて顎を外させた。急に支えをなくなった坂本の顎もつられて落ちかけ「おおぅ!? あ、痛!舌噛んだ!」頭上で上がった悲鳴ににんまりと笑いが漏れる。仕返ししなければならないことなど何もなかったはずなのに彼の痛みっぷりが滑稽で、ざまーみろ、とちょうど顔の横に下げられた坂本の耳へ声とともに息を吹きかけてやる。くすぐったさにぴくりと彼は身を震わせた。このじゃじゃ馬娘め。坂本も少しだけ笑ってみせる。
そこまで強く噛んではいないがひりひりする痛みに血が出ていないかと舌を触り、なんともないことを確認して坂本は銀の頬をぎゅっと抓んでやった。もちろん力加減はしているが、それほどもち肌ではないから頬の肉を抓まれるのは何気にかなりの痛みがある。いはいはい!と喚いて銀時が放せと坂本の腕をぺしぺしと叩くも、握力も腕力も坂本の方が銀時より上なわけで、それぐらいの抵抗では外れるはずもなく。おまけにこちらは正当な仕返しなのだと、坂本はにーっこりと笑って銀時の顔を覗き込んだ。

「ごめんなさい、は?」
「ほへんなひゃい」
「はい、よおできちゅう〜」

舌を噛まされたくらいで坂本が本気で怒るわけもなく、これまたあっさりと放される。うっすらと赤みを帯びた頬を摩り、銀時は恨みがましい眼で彼を見上げた。首の後ろががくんとなって少し息苦しいが、そうしないと真後ろにいる坂本の顔は見えない。

「辰馬のばーか」
「こがなイイ男に向かってよおも言えたものじゃな」
「イイ男?どこが?どのへんが?」
「そこは突っ込んじゃいかんとこぜよ!」

あっはっはと笑って、銀時の額にかかった前髪を後ろに梳く。そしてちゅっと可愛らしい音をたてて口付けるものだから、銀時はますます不機嫌になった。

「……やっぱおまえ、無駄にデカすぎるんだよ」
「ほりゃあすまん」

謝ることでもないけど。唇を尖らせる銀時にまた坂本はひとつ笑いを零して、

「でも、この位置は誰にも譲れんなぁ」

そうしてぎゅっと後ろから抱きしめてくる。あー落ち着く、と本当に穏やかな声で言われて、敵わないなぁと銀時は空を見上げた。