「だから、いつも言っているだろう?」


彼はよくこのフレーズを口にする。よく、というよりほぼ毎日。それを言わせているのはキラ自身の行いなのだが、キラはアスランが何をきっかけに「いつも言っているだろう?」と口にするのか分からないから改善のしようもなく、今日もまた特性アイスティーを口にしながらアスランを見上げる。このフレーズが出たあとは大抵キラに対する小言なのだ。それが毎回違う内容であるから最近では、今日はどんな話を聞けるのだろうかと楽しんでいたりする。
アスランが作ってくれた朝食を口にせっせと運びながら、席についた彼が朝から疲れているのは何故だろうとちょっと考えた。
キラの口の端についた食べかすを取ってやり、アスランは溜息交じりに言う。


「俺はおまえのこと、本当に好きなんだよ」


あ、これは何度か聞いたことがある。キラはアイスティーの最後の一口を飲み込んだ。新しい言葉が出てくるものだと思っていたから少しだけガッカリし、その期待ハズレという表情を見たアスランは眉を寄せた。
なんでそんな顔するんだよ。そう聞かれてキラは首を傾げる。どんな顔?と聞けば、迷惑そうな顔、との返事。そんなつもりはないキラは誤解だよアスランと言いつつ氷だけになったコップをぐいとアスランの方にやる。もう一杯飲みたいという意思表示なのだがアスランはコップを押し留めてこれ以上はお腹を冷やすから駄目、と子どもをあやすように首を振った。

「じゃなくて」
「ホットでもいいよ。イザーク特性のお茶が飲みたーい」
「あいつは性格は悪いが確かに紅茶に関しては……でもなくて。話題を逸らすなキラ」
「逸らしたのはアスランだよ」


そうだろうかと記憶を辿ろうとしたアスランは慌てて視線をキラに戻す。どっちが逸らしたかなんてこの際どうでもいい。さっきから話がちっとも進んでいないのだ。


「俺はおまえのことが大切なんだよキラ」
「うん。わかってる」


キラはとても素直に頷いた。空のコップを未練たらしく見つめながら。
それなら、とアスランは息を吐く。


「俺の理性がもたないようなことは、しないでくれ」

頼むから、と。机の上に両手をついて頭を下げたアスランに、キラは「えー」と頬を膨らませる。キラは見た目も心も既におとなに分類されてもいい歳だが、スキンシップが大好きなのは変わっていないのだ。だからアスランの理性とやらがどの辺りでぷっちんと切れてしまうのかキラには判断できない。これは新しいプログラムを作れという課題より難しい問題だ。今朝の反応から考えて、朝アスランの上に圧し掛かって起こすのは駄目らしいことくらいはなんとか分かったが。
努力するよ。しぶしぶ頷くとアスランはほっとしたように顔を上げた。



「じゃあ、一緒に寝るくらいならいい?」
「ああいいよ嬉しいよって言いたいけどそれが一番キツいな俺にとっては!」


今日もまたアスランの葛藤が始まる。