神様ってのは残酷だな。そう言ったアスランに彼は笑った。あれ、神様なんか信じてたんだ?意外だなぁ。
その笑顔があまりに普段どおりでそして綺麗だったから、言葉もなくただ微笑み返すことで精一杯だった。するとキラは、泣かないでアスラン、なんて優しい声で触れてくるものだから、更に泣きたくなる。泣かせてるのはお前だよ。泣き笑いの表情でやっとの思いで声を出すと、ごめんね、と謝罪の言葉が返ってきた。
どうしてお前が謝るんだ?謝りたいのはこっちだよ、とは言わない。そうすれば彼が大きな瞳で「なんで?」と見返してくることが分かっていたから。だからアスランはただキラの手を握ることしかせずに、彼が全てを吐き出すのを待った。


結局、ヒビキ博士の研究は全て失敗だったということだね。キラはからからと笑い、続ける。最強だか最高だか知らないけど、すぐに壊れるようなモノじゃあ意味ないじゃないか。人工母体なんか造ってあげく自分たちはさっさと死んじゃって、完成したと思ったものまで、後々ガタがくる不良品。ぜーんぶ失敗。おとなって馬鹿ばっかり。だけど馬鹿なのは僕も一緒。何をしようとしていたんだろうね、僕は?今さらだけど、ていうか今だから分かることだけど、本当に僕達って幼かったんだね。あれ、僕だけだったかもしれない。君も大概、馬鹿だなあって皆に言われるようなことをしてたけど、僕ほどの愚か者じゃないよね    ねえアスラン、そこにいるのは本当に君だよね?

急に心配になったのかキラはアスランの手の平を強く握り締めてきた。そうだよ、俺だよ。アスランはキラの耳元で囁く。するとキラはほっとしたように口元を緩ませた。

アスラン、君には何が見えてる?今僕がいるのはどんな部屋?窓はある?そこからは何が見えるの……
目の前にはお前がいるよ。お前がいるのはラクスが設えてくれた部屋だから、うん、センスがいい。お前の好きな色で飾ってあるし、枕元にはカガリが持ってきてくれた花束が生けてある。ああでも、ベッドがお姫様ベッドなのはちょっと頂けないな。部屋と似合ってるから余計に。窓からは海が見える。もう少し経てば太陽が沈むだろう。明るい橙色の陽だ。夜になると小波の音が聞こえてくるよ   

本当は、ここは地球の海が見える部屋なんかではない。真っ白に彩られた四角い部屋。外とはビニールで隔てられている。
キラが事実を知ることを望んでいても、まさかそれを教えることなんか出来ない。少なくともアスランにはできなかった。だから彼には嘘を教える。ここは地球の、美しい風景の見える場所だと。ラクスもカガリも来たことはあるけれど、政務に忙しい彼女たちが毎日花を届ける暇はない。あったとしても消毒液に浸されていない花は持ち込めない。


「なあキラ……お前、幸せだったか?」

キラは盲た瞳で見返してくる。そしてまた何の屈託もなく微笑うのだ。

「うん。幸せだったよ」



最後まで 君は僕に 僕は君に 嘘を捧げる。