私はなにをすればいいのですかと問うたその声にルルーシュは微笑んだ。
「何もしなくていいんだ。今は、まだ」
「でも、」
「いいんだ。君は覚えていないだろうけれど、君はよく働いてくれたんだ。次はオレが君に返す番だ」
「……返す?」
ルルーシュは頷く。その瞳にうっすらと水の膜が張り今にも零れ落ちそうだったが、一度の瞬きでそれを押し留め、ルルーシュは少女の手を優しく握り締めた。
「君は俺に、力をくれた。だから今度は俺に、君が生きていける世界を、渡す番だ」
優しく握り締めた手は細く、小さかった。彼はきつく瞼を閉ざし、誓うようにその手に口付ける。少女は驚いたように体を揺らしたけれどその手を振りほどくことはしなかった。彼が何者なのか分からなかったせいだ。自分を使う人間であれば、無礼は許されない。だから少女は恐怖に慄きながらもその場から逃げ出すことをしなかった。
そんな少女の胸の内の驚きも恐怖も知らないままに、青年は深く深く心に刻む。
かつて灰色の魔女と恐れられた女がいた。彼女は魔王の傍にあり、彼をよく助け、彼のよき理解者であった。
その魔女は、たった今、彼の目の前で失われた。今魔王に相対するのは細い肢体を縮めて己を守るとするただの少女でしかなかく、魔王を愛した女の姿はそこにはない。
魔女がいなくなったその時に、魔王は死んだ。魔女のための魔王は魔女と共に消えたのだ。
けれどルルーシュは誓うしかなかった。もはや魔王でなくなった彼は、それでも前に進むしかないことを、知っていたからだ。
「君は俺を守ってくれた。愛してくれた。だから俺はお前を守るよ」
C.C.、と。かつて魔王を愛した魔女の名は、音にされずに囁かれる。




魔王は魔女とともに