副会長は誰もが認める高嶺の花であるという。だから期待していいわよと言ったのはそういう自身も華やかな美貌を持つ会長で、だけど男だけどねと笑ったのは跳ねた髪が特徴的な先輩。へーそれは楽しみだなぁと笑ったジノはその胸中で、庶民の言う美人はさてどれくらいの美しさのことだろうと考える。
ジノはこの世に生を受けてから今までずっと高貴な生まれの人間である。己がブリタニアにおいて正統な貴族であり強者であることを他者に振りかざし喜ぶ人間ではなかったが、自分が貴族であることを正しく知っている為に正しくブリタニアの貴族であった。しかも今は皇帝直属の騎士である。彼の周りにあるものは全て世界のなかでも最高級とされるものばかりであり、見目麗しい麗人を見る機会にも恵まれていた。それゆえに「美しい」と判断する基準が庶民とは若干のズレが生じていることを知っていた。アッシュフォード学園はエリア11に住む名門貴族も通う学園であるとはいえ、学園の場所が場所である。本物の貴族であれば、学校は本国のものに通うだろうし勉学は一流の家庭教師が専属で何人もついているのが当然。だからアッシュフォード学園はあくまでエリア11にあるただの学園であり庶民の集う学園なのだ。よってジノの美意識が学園内において満足される可能性は低い。それは全て、ジノがブリタニアにおいて正しい強者であり貴族であるがゆえの偏見であり差別であるのだが、その点はジノの知るところではない。
つまりジノは、生徒会長と先輩の言う「類稀な美貌を持つ副会長」とやらを、それほど期待していなかった。期待するほどのものではないだろうと、無意識のうちに判断したのである。
けれど「こいつが副会長だよ」そう言ってパソコンのフォルダから開かれた画像に、ジノはひゅっと息を詰まらせる。その様子にリヴァルは満足そうに「な、美人だろ?」と笑う。それにジノも笑って返した。
「……こんな別嬪さん、今まで1回しか見たことないよ」
ジノはこっそり隣を見やる。携帯を操作していた桃色の少女はこちらを見ていない。あぁ良かったと安堵したのはいったい誰の為だったのだろう。
彼は見つけてしまった。
見つけてはならなかったはずの、至高の宝を。
いつか果たそうとした約束がある
静かな足音とともに近づく人の気配に、アーニャが立ち上がる。それを追いかけるようにしてジノも椅子から離れた。いつの間にか固く握り締められた手の平に、切り揃えられた爪が浅く食い込んでいる。
ナイト・オブ・ラウンズの存在にたじろぐ副会長にジノは駆け寄る。
肩に置かれた手が、本当は抱きしめるために振り上げられたなど、その事実を知る者はいなかった。