「逢いたいんでしょ?ほんとうは、さ」
と、ロイドは言った。幼子に言い聞かせるような、そんな穏やかな声で。
しかし、言葉と、口調と、表情と。そして想い。それらが何ら一致しない人間が目前のおとなであり、また自分もその一人であった。ルルーシュはその点ではロイドという男をよく理解していたし、それ以上に己のことを知っていた。故に、誰が考えるまでもなく彼が答える言葉など、たったひとつしかないのだ。
「逢いたくない」
「嘘ばっかり」
声は震えていなかった。いつもと同じ声色でルルーシュは言い、それにすかさずロイドは言い返した。
嘘ばっかり。
「嘘をついたとして、俺になんのメリットがある?」
「人間はなにもメリットデメリットだけで生きてるわけではないでしょ?」
「すべての人間がそうであるとも限らない。例外は必ず存在する」
「君のように?」
「お前のように」
そこで初めてルルーシュは表情を崩した。ロイドは少しだけ、ほんの1秒だけ瞼を閉ざし、再び見えたこどもの瞳を見て、深く深く溜息をついた。
「本当に、素直じゃないんですから」
しょうのない人なんだから。まったく。どうしてこんな子に育っちゃったのかなぁ。
肩にかかっていた圧力が消え、微笑を描いていた唇は今度は苦笑の形になり。ルルーシュの身長に合わせて屈めていた背をすっと伸ばして顔の角度だけ変えてこどもを見る。いきなり態度を変えたロイドに困惑するわけでもなく相変わらず表情を失くしてそこに立っていたルルーシュだが、
「そもそも僕だって、利点ある無しだけでは動かない、普通の人間なんですよ」
ぐいと腕を引っ張られてそのままぽすんとロイドの腕の中へ。突然のことに驚き言葉を無くしたルルーシュは背中に回された腕に息を呑み、そっと頭を撫でる優しい手つきに再び声を空気と共に飲み込んだ。
あなたは分かっているつもりでも実は全く分かってなんかいないんですよ。耳元で囁かれる声は偽りなく穏やかで愛しみに富んでいた。あぁこんな声、これは聞きたくない声だと、心臓のあたりがきゅっと締め付けられるように痛みくしゃりと顔が歪む。けれどロイドの胸元に抱きしめられた状態ではせいぜい彼の服を握り皺を作るくらいの抵抗しかできず、こどもの動揺も願いにも気付かないふりをすることに決めたロイドは抱き締める力をちょっとだけ強めて、本気でなければ腕の中のこどもが逃げられないようにした。
あなたはいつから、そんな嘘ばかりな人間になってしまったんですかぁ?きゅっと握りしめられた手の平に神を梳いていた己の手をそっと重ねれば、わずかに子供の体が強張った。
あぁ、ほんとうに、この人は。
「まぁ、例えあなたが嘘しか言わなくったって、僕はちゃんと嘘だって分かるから、いいんですけどね」
強張った体と手の平が震えた。しかしロイドは己の胸元により強く押し付けるようにされたこどもの顔は見なかった。背中に回していた腕で彼の華奢な体を包み込むように抱き締めて、こどもが自ら顔を上げるのをただ待ち続けた。