もう興味ない。ただの人間でしかシズちゃんはいらない。どうでもいい。だから構わないで。そう言ってこちらを見てくる冷めた目が気にいらなくて地面に投げ飛ばした。いつもなら軽くかわせるはずなのに。ああ本当にこいつは俺のことなどもう興味がないのだと知った。興味がないからいつものように逃げようとしなかったのだ。確かに臨也を見つけて追いかけていたのは静雄のほうだが、臨也も時には言葉や動作で反撃してきた。それを一切、しようとしなかった。臨也にとって最大の関心であり最大の無関心である人間の一人になってしまったのだ、己は。それを自覚したら目の前が真っ赤になった。大勢いる人間のうちの一人でしかない一人の人間を見る目で見てくる男がどうしようもなく憎かった。許してたまるかと思った。
正気に返ったのは臨也の引き攣れた小さな叫び声を耳にした時だった。けれどその時にはもう戻れないところまで来てしまっていた。無理やりに突っ込んだ後孔は痛みを伴うほどに狭かった。それでも止めることせず腰を進めるとみちりと嫌な感触と滑りが伝わってきて、あぁ切れてしまったのかと正しく他人事に思った。切れ痔を患う情報屋だなんてダッセエ、嗤おうとしたが一文字に引き結ばれた唇は固まったように動かない。
いやだ、痛い、やめろよ、馬鹿、死ね、死ね、死ねよシズちゃん、痛いって言ってんだろ、死ねよ。
繰り返される罵倒の言葉が愉快だと思った。いつもに比べてボキャブラリーの少なさが面白かった。もっと罵れよノミ蟲。罵って罵って、何時もみたいに俺を蔑めばいい。
粘膜と粘膜を擦り合わせてただ無意味な生殖活動を行う。全くもって愚かなことだと思ったが、愉快だと思ったから止めなかった。なるほど快楽主義であるといつだったか告げたノミ蟲を自分はもう二度と馬鹿にできない。快感はなくとも愉悦を感じることはできている自分だってただの馬鹿でしかないと思った。
興味がないなんて言うな。いらないなんて言うな。いつの間にかうわ言のように己の口から零れ出ていた言葉に、静雄は目を閉じて嘆いた。
痛い、もうやだ、殺す、殺してやる、シズちゃんなんか嫌いだ。
薄汚れた地面に押さえつけた手がいつの間にか静雄の腕を掴んでいる。まるで縋られているようだと思って、もう何もかもが手遅れなのだと自覚する。
最悪だと涙を流す臨也の首筋に唇を寄せる。本当に最悪だ。一度も追いかけてきてくれなかったこの男を、自分は追い続けるしかないのだと、泣きたいような気持ちで思った。