煩いと思うなら塞げばいい。戯れに与えた助言を男は素直に受け止め、実践した。言葉の選択を間違えたと臨也が気付いた時には静雄の顔が視界いっぱいにあった。あ、近い。次の瞬間には、情熱的にキスされてしまった。口を喰らい尽くす濃厚なやつを。おいおいマジかよと寒気と吐き気が襲ってきて、どうにかしてこの間違いを正そうとナイフを突き付けたが、当然のようにその刃先が男の肌に突き刺さることはない。あぁもう仕方がないと諦めた。男が触れることを許した。ならば今この瞬間だけはこの男は俺の命令通りに動くただの駒でしかないのだと自分に思い込ませた。首筋に腕をまわして、俺のものだと主張するように引き寄せる。遠慮のない馬鹿力が、腰が折れたらどうしてくれるんだと思うほどに強く抱きしめ返してくるのだから堪ったものではなかった。けれど、お互いに閉ざすことのなかった瞳を静雄が先に閉ざしたのを目にして、自分も目を閉ざした時、まるで愛されているような感覚に陥った。そんな馬鹿な。どんな悪夢だ。けれど荒っぽく重なる唇に慣れた頃、見上げればその鼻先と何事か紡ぎ出そうとしている唇が見えてしまった。きっと自分も同じような顔をしているのだろうと思った。それでもお互いに、言葉は無かった。だから、もう一度キスをした。目も閉じずに。だって勿体無いと思ったのだ。苦しそうに何かに耐えている静雄の顔なんて、そうそう拝めるもんじゃないだろうから。