臨也、と呼ぶ声が好きだと思った。 彼が好きだからなのか、彼の声が好きだからなのか、分からなくなるほどに。

「もっと、呼んで」
「……変な薬でもヤってんのか」
「いらないよ、薬なんて。目の前にもっと俺を中毒にさせる存在があるのに」

見上げた顔がみるみるうちに赤くなる。普段は自分よりずっと気障な台詞を素面で囁く男なのに、与えられる愛にはひどく初なこの男が愛しかった。
ねえシズちゃん。俺の名前を呼んで。君以外の人の声を忘れるくらいに。

「シズちゃんの声しか思い出せなくなるくらいに、シズちゃんの声を聞きたい」
「……臨也」
「足りないんだ」

静雄の腕を引き寄せてその体に抱き付く。みっともないという自覚はあった。彼に執着して、恋慕して、声を聞きたいと駄々をこねている。今時の中学生ですらもっとストレートに愛を告白するだろう。

「好きとは言わないで。愛してるもいらない」

かわいそうなシズちゃん。こんな面倒な男に好かれてしまって。でも愛に愛を返した君も悪いんだ。

「君の声が、好き」

頬を流れ落ちたのは涙なんかじゃない。心の中の汚れた残滴が零れ落ちただけだった。